「いい人がいたら採用したいのに、全く応募が来ない…」

「せっかく採用しても、すぐに辞めてしまう…」

静岡県の中小企業の経営者や人事担当者の皆様、こんなお悩みはありませんか?

本日は、静岡県よろず支援拠点コーディネーターであり、中小企業診断士・社会保険労務士として多くの企業を支援してきた稲守が、応募が殺到する求人票の書き方の秘訣と、その前提となる採用戦略について、セミナーの内容を元に分かりやすく解説します。

この記事を読めば、単なる求人票のテクニックだけでなく、人が集まり、定着する会社づくりのヒントが見つかるはずです。

なぜあなたの会社に応募が来ないのか?目を背けてはいけない「3つの現実」

求人票の書き方を工夫する前に、まずは現在の雇用市場がいかに厳しい状況にあるか、客観的なデータで把握することが不可欠です。

現実①:求職者の「取り合い」。有効求人倍率が示す人材不足

「有効求人倍率」という言葉をご存知でしょうか。これは、求職者1人に対して何件の求人があるかを示す指標です。

  • 全国平均:1.28倍
  • 静岡県平均:1.18倍
  • 静岡市周辺(中部):1.6倍 (令和5年データ)

1倍を超えているということは、求職者よりも求人の方が多い「売り手市場」であることを意味します。特に静岡県中部では1.6倍と、5社応募があっても1社は人が採用できない計算になります。もはや、企業が「人を選ぶ」時代ではなく、求職者に「選ばれる」時代なのです。

さらに職種別に見ると、この偏りはさらに顕著になります。

  • 人手不足が深刻な職種
    • 警備・保安:7.34倍
    • 建設・土木:6.34倍
    • 福祉・介護:3.78倍
  • 人が余っている職種
    • 一般事務:0.50倍

もしあなたの会社が人手不足の業界にいるなら、今までと同じやり方では到底、太刀打ちできないことを理解する必要があります。

現実②:年収800万円でも失敗?「優秀な人材」の大きな誤解

「とにかく優秀な人が欲しい」という思いから、高い年俸を提示してエージェント経由で採用するケースがあります。しかし、これが大きな失敗につながることも少なくありません。

ある機械メーカーが、年俸800万円で営業の幹部候補を採用した事例があります。彼は前職で量産品の営業として非常に優秀な実績を持っていました。しかし、そのスキルは、一品一様の設備を販売するそのメーカーのビジネスモデルには全く合わず、結果的に1000万円以上の損失を出してしまいました。

「ある業界での優秀」が「自社での優秀」とは限らないのです。自社が求める人物像を具体的に定義できていないと、このようなミスマッチが起こってしまいます。

現実③:求人票は「見られてすらいない」という衝撃の事実

そもそも、「求人票の書き方を変えれば応募がある」という認識自体が、スタート地点として間違っている可能性があります。

求職サイトには何百、何千という求人票が並んでいます。その中で、あなたの会社の求人票は、その他大勢に埋もれてしまっているかもしれません。まずは数ある求人票の中から「見つけてもらい」、クリックしてもらうための「引力」がなければ、どんなに素晴らしい内容を書いても意味がないのです。

給料だけじゃない!人が本当に「この会社で働きたい」と思う理由

では、どうすれば求職者に選ばれる会社になれるのでしょうか。ヒントは、賃金が高くなくても人が集まる企業にあります。

オリエンタルランドとスターバックスに学ぶ「理念」の力

仕事を通じた成長を実感できる企業ランキングで常に上位にいるのが、株式会社オリエンタルランドスターバックスコーヒー ジャパン株式会社です。驚くべきことに、彼らの初任給は決して高くはありません。

ではなぜ人が集まるのか?その答えは、「経営理念が現場に浸透しているから」です。

  • オリエンタルランド:「素晴らしい夢と感動、人としての喜び、そして安らぎを提供します」
    • この企業使命に共感し、キャスト(従業員)の素晴らしいサービスに感動した人が「自分もここで働きたい」と応募してきます。
  • スターバックスコーヒー:「アワーミッションバリュー」
    • お客様に快適な時間を提供するという価値観に惹かれた人が、仲間になりたいと考えます。

BtoB企業では分かりにくいかもしれませんが、自社の理念やビジョンを明確にし、それを軸とした企業文化を育てることが、強力なブランディングとなり、人を引きつけるのです。

【世代・性別】転職理由から紐解く、社員が本当に求めるもの

転職者が会社選びで重視するポイントは、世代やライフステージによって変化します。

世代転職理由トップ3特徴
20代①給与・昇給 ②職場雰囲気 ③労働時間まずは給与。そして働きやすい環境を重視。
30代①労働時間 ②給与・昇給 ③職場雰囲気結婚・育児などで時間の制約が生まれ、労働時間の優先度が上がる。
40代①給与・昇給 ②人間関係 ③労働時間職場の人間関係が大きな要因に。
50代①給与・昇給 ②職場雰囲気 ③人間関係退職が視野に入り、居心地の良い環境を求める傾向。

ここから分かるのは、物価高騰の影響もあり全世代で「給与」が最大の関心事である一方、「職場の雰囲気」や「労働時間」といった働きやすさも同様に重要視されているということです。

給与で惹きつけることは応募を増やす即効薬になりますが、給与だけで入社した人は、より高い給与を提示する会社にすぐに移ってしまいます。中小企業が大企業と給与で勝負するのは得策ではありません。だからこそ、給与以外の「働きやすさ」や「働きがい」をいかに魅力的に伝えるかが鍵となります。

応募につながる!求人票の「戦略的」な書き方

いよいよ、具体的な求人票の書き方です。ポイントは「誇張せず、誤解なく、具体的に」伝えることです。

嘘は厳禁!労働条件は「正直」かつ「明確」に

求人票の内容と実態が異なると、早期離職の原因になるだけでなく、裁判トラブルに発展するリスクもあります。

  • 雇用形態:「正社員募集」と書きながら、最初の数ヶ月は契約社員である場合は、「試用期間〇ヶ月(同条件)、その後正社員として雇用」など、事実を正確に記載しましょう。
  • 給与・手当:「月給25万円~40万円」のように幅を持たせすぎると、求職者は「どうせ最低額だろう」と不信感を抱くか、逆に過度な期待をしてしまいます。客観的に妥当な金額を提示し、「経験・能力を考慮の上、当社規定により優遇します」と補足する形がベターです。
  • 各種手当:「住宅手当あり」だけでなく、「世帯主に対し月2万円支給」など、要件と金額を具体的に書きましょう。
  • 労働時間・休日:「残業月平均〇時間」「年間休日〇日」など、具体的な数字を記載します。特に「完全週休2日制(毎週2日の休み)」「週休2日制(月に1回以上、週2日の休みがある)」は全く意味が違うので、正しく使い分けましょう。

【記載例】応募者が知りたい情報を具体的に書く

良い求人票は、応募者が「この会社で働く自分」を具体的にイメージできるものです。

【悪い例 】

  • 業務内容:営業
  • 求めるスキル:やる気のある方

【良い例 】

  • 業務内容:会計事務所の内勤スタッフとして、既存のお客様(月20社程度)の請求書発行やデータ入力をお任せします。電話対応はありますが、来客対応はほとんどありません。
  • 求めるスキル:Excelの基本的な関数(SUM, IFなど)が使える方。簿記3級程度の知識があれば尚可。

このように書くことで、「自分にもできそうか」「どんなスキルが活かせるか」が明確になり、ミスマッチを防ぐことができます。

要注意!「固定残業代(みなし残業代)」の正しい書き方

固定残業代は、実際の残業時間に関わらず一定時間分の残業代を支給する制度です。求人票に記載する際は、以下の2点を必ず明記する必要があります。

  1. 固定残業代が基本給に含まれないこと
  2. 固定残業代に相当する時間数と金額、およびそれを超えた場合は追加で支給すること

【記載例】

月給 250,000円 (基本給 210,000円 + 固定残業代 40,000円)

※固定残業代は、時間外労働の有無に関わらず20時間分として支給。

※20時間を超える時間外労働分は追加で支給。

この記載がないと、違法と判断される可能性がありますので、十分注意してください。

採用戦略をアップデートする新しい視点

求人票の改善と同時に、採用活動全体の考え方もアップデートしていきましょう。

「キャリアパス」で社員の未来と会社の成長をリンクさせる

従業員がその会社でどのように成長し、キャリアを築いていけるのか。その道筋を示すのが「キャリアパス」です。

大企業のような立派な制度は必要ありません。「入社3年でこの資格を取れば、チームリーダーとして月給が〇万円アップする」といった簡単なものでも、社員にとっては大きなモチベーションになります。社員の成長意欲を会社の成長につなげる仕組みを作りましょう。

採用コストを劇的に下げる「お試しバイト(職業体験)」

今、注目されているのが「タイミー」のようなスポットワークサービスを活用した「お試しバイト」です。

【企業側のメリット】

  • 低コスト:数時間のバイト代で、採用候補者の働きぶりを直接見ることができる。
  • ミスマッチ防止:実際の職場の雰囲気や人間関係を体験してもらうことで、定着率向上につながる。
  • 優秀な人材の発掘:副業を探す優秀な人材と出会える可能性がある。

受け入れの手間はかかりますが、一人あたり100万円近くかかるとも言われる採用コストを考えれば、試してみる価値は十分にあります。

賢く使って負担を軽減!「助成金・補助金」の活用

国は、雇用促進や賃上げ、働き方改革に取り組む企業を支援するため、様々な助成金を用意しています。

  • キャリアアップ助成金:有期雇用の労働者を正社員化した場合に支給。
  • 中途採用等支援助成金:中途採用者の雇用管理制度を整備し、採用を拡大した場合に支給。
  • 業務改善助成金:事業場内の最低賃金を引き上げ、設備投資などを行った場合に支給。

これらの制度をうまく活用すれば、社員の待遇を改善しながら、会社の負担を軽減することが可能です。専門家である社会保険労務士に相談するのも一つの手です。

まとめ:求人票は会社の未来を創る「ラブレター」である

本日の内容をまとめます。

  1. まずは現実を知る:今は企業が「選ばれる」時代。自社の立ち位置を客観的に把握しよう。
  2. 「土台」を固める:給与だけでなく、経営理念や働きやすさといった「会社の魅力」を磨こう。
  3. 求人票は「具体的に」:応募者が働く姿をイメージできるよう、嘘なく、分かりやすく伝えよう。
  4. 戦略的に採用する:キャリアパスの提示や助成金の活用など、多角的な視点で採用活動を行おう。

求人票の書き方は、単なるテクニックではありません。自社はどんな会社で、どんな未来を目指していて、どんな仲間を求めているのか。その思いを伝える、未来の仲間への「ラブレター」です。

今日の記事が、あなたの会社にとって理想の人材と出会うための一助となれば幸いです。